はじめに
厚生労働省の発表によると、糖尿病とその予備軍を合わせて2000万人以上と、成人の5人に一人が患っており、糖尿病が国民病と呼ばれるようになって久しい。
筆者も40代のはじめから、糖尿病(肥満などから生じるII型)の宣告を受け、それからは試行錯誤しながら40年近くを過ごしてきましたが、今から17年前の2006年に、現在も実行している糖質制限の食事療法にめぐり合って以来、ありがたいことに薬はまったく使用せずに、そこそこの健康状態を保っています。
毛細血管が傷められることによる、眼底出血・腎機能低下・脳梗塞など恐ろしい糖尿病の合併症に罹るまえに、一人でも多くの血糖値の高い方の参考になればと、筆者の体験を述べさせていただきます。
医学的見地での免責事項
体験を述べる前にお断りしますが、筆者は医療関係の専門家ではなく、以下に述べる内容はあくまで自分自身の体験と個人的な感想であり、読者の皆様が実際に糖尿病の治療あるいは運動・食事療法をおこなわれる場合、専門の医師、運動療法・食事療法の専門家の指導を受けることを強くお勧めします。
また、掲載されたデータや情報は誠実に調査し、最大限の注意を払っていますが、医療情報の正確性は常に変動があるため、情報の正確性について保証するものではありません。
糖尿病の宣告を受ける
筆者が勤務先の、かかりつけ医の先生から糖尿病と診断されたのは、1986年、42才で米国の駐在を終えて、帰国後の健康診断の時でした。当時はヘモグロビンa1cの数値は、今ほど重要視されず、もっぱら空腹時血糖値による診断でしたが、確か空腹時で200近くだったと記憶しています。
正直な気持ち、「糖尿病」という病名自体に恥じらいと抵抗感があり、無駄な抵抗とは思いつつも先生に、「本当に糖尿病ですか?」と尋ねたら、先生から「立派な糖尿病です。」と断言され、ガクッと来た覚えがあります。
当時は身長181cmに対し体重が80㎏以上と太っており、先生の見立てでは、「アメリカで、ハンバーガーやステーキを食べすぎたせいでしょう。」と言われたし、本人もその通りだなぁと。
あとの後悔、先立たずでした。
また同時に先生から言われたのは、
「糖尿病は一度罹ったら、一生治癒することはない。日常の生活に気を付けて、上手に病気と付き合いなさい。」
「糖尿病が恐ろしいのは、血糖値が単に高いから云々ではなく、血糖値が高いために毛細血管が詰まり、それが原因で眼底出血とか、腎臓疾患とか毛細血管が集まっている組織がやられる、いわゆる合併症が恐ろしい。」
といったアドバイスでした。
発病後、炭水化物制限の食事療法にめぐりあえるまで
糖尿病と診断されてから2006年までの20年間、ほとんどのあいだ血糖値を下げる投薬を受け続けましたが、空腹時血糖値は正常値(一般的に70~100が正常範囲)よりかなり高い状態の生活が続きました。
2000年ごろからは当時の掛かりつけの医院でも、空腹時血糖値の代わりにヘモグロビンa1c(以下「a1c」と略)の数値での経過監察となりましたが、それからの数年はa1cの値が7.5前後の高い数値で推移しました。
空腹時血糖値とヘモグロビンa1c
例え方がおかしいかも知れないが、企業の決算に例えると。
空腹時血糖値とは貸借対照表のようなもので、計測時点での血糖値の値を表し、ヘモグロビンa1cとは損益計算書のように、過去の一定の期間(だいたい3ヶ月)における血糖値の成績を表す。
今から思えば残念なことですが、高血糖そのものは日常の生活にほとんど差しさわりがないために、普段の生活の場面で、医院に薬をもらいに行くとき以外は血糖値の値を気にすることはほとんどなく、さらに2005年、勤務先の都合で京都市内に移り住んで以来は、一年間ほどは病院にも行かず、かなり無頓着な状況が続いてしまっていました。
そのような日常生活の中、翌2006年のある日、たまたま勤めていた事務所が入るビルの広場で、ボランティアで眼の検診が行われており、何となく気になっていたので検査を受けたところ、「あなたの眼底は非常に危険な状態だから、直ぐに眼科医に行かれることを強く勧めます。」と言われました。
今更ながらでしたが、その足で近くの評判の良い眼科医に直行し、その後、種々検査を受けたところ、「例えて言えば、大きな石が坂道をゴロゴロ転がり、深い谷を見下ろす断崖の崖っぷちで、かろうじて止まっている状態で、いつ転がり落ちてもおかしくない深刻な状況。」と。すなわち眼底出血が起きる一歩手前どころか、半歩手前だったわけです。
食事内容の変革 ー 炭水化物制限食へ
通院を始めた眼科の女医さんには、直ぐに糖尿病の本格治療をしなさいと言われ、これまで続けてきた血糖降下剤の投薬による治療を続けるのが良いのか、他に方法がないのかと悩みながら、駅前の書店で糖尿病関連の参考書をあれこれめくっていたら、ふと「主食を抜けば糖尿病は良くなる」と言う題名の本が目に留まりました。
これまでも漠然とですが、糖尿病治療には、伝統的な炭水化物を含む栄養バランスを考えた普通食療法と、当時としては新しい説の炭水化物を制限する食事療法があると認識していましたが、この本の著者の江部康二先生自身が糖尿病者であり、自ずから実践されている糖質制限食事法と言うところに惹かれ、躊躇なくこの本を手に入れて、その日のうちに夢中で読破しました。
その翌日から早速、先生の解説通りに米飯・パン・麺類など、主要な炭水化物源の主食を抜き、大好きなビールを糖分ゼロの発泡酒とか焼酎などの蒸留酒に切り替え、野菜と魚類・鶏肉・ポークなどを主体に、徹底的な炭水化物制限の食事法を実践したところ、驚いたことに7.0以上あったa1cが3ヶ月目に6.0を切り、5ヶ月目には5.3まで劇的に下がりました。
また同時に、76kgあった体重が4か月後には70㎏と、これまた劇的な減量となりました。急激に体重が減ると、顔やおなかの皮膚がたるんでシワクチャになったので、知り合いの連中から「どこか具合が悪いの?」と心配されたが、体調は外見とは違い、明らかに健康だ!と感じるようになりました。(笑)
しかしながら極端な炭水化物制限は、もともとご飯大好き、ビール大好きの筆者にとって大変な行(ぎょう)でした。(^。^)
半年ほどはこの徹底した食事法で頑張りましたが、いろいろ関係書を読んだところ、糖尿病の合併症はa1cが6.5以上で起こりやすいと指摘されていたので、勝手な解釈ですがa1cが6.0以上になれば黄信号で気を付けようと心に決め、極端な制限から、少しゆるめのプチ制限に変更して今日に至っています。
因みにここ一年のa1cの成績は、昨年12月が5.9、今年の7月も5.9であり、いつも通っている医院の先生からは、良い成績ですねとお褒めの言葉をいただいています。
合併症 ー 眼底出血の治療
ヘモグロビンa1cは上記のごとく6.5以下に治まりだしましたが、いかんせん20年以上高血糖の状態が続いたせいで、筆者の場合、眼の網膜、すなわち眼底が出血で既にボロボロになっており、2010年の冬、糖尿病の宣告をうけてから24年後に、遂に右眼に眼底出血が生じて、急遽大学病院でレーザー治療を受ける羽目になりました。
その4年前の2006年から、a1c数値自体は改善していましたが、それまでの20年以上の、高血糖状態に対する付けが廻って来たわけです。
レーザーを当てての治療は数度にわたる通院で、二ヶ月ほど掛かりましたが、おかげで無事に終了。それからしばらくは平常な生活が続いていましたが、9年後の2009年、別の大学病院で白内障手術を受けたときに、もう片方の左眼のほうも眼底出血が進んでいると言われ、こちらもニヶ月余りの期間に数度に分けてレーザー治療を受けました。
現在の日常
眼底出血の治療のためのレーザー治療が終了してからは、引き続き近くの眼科医に通い、4カ月に一度、定期的に眼底検査・視力検査を受けていますが、さいわいなことに小康状態が続いています。
体重については、70kgになったあとも少しずつ減少し、現在の64kg前後となってからは数年間、同じような状態が続いています。急激な減量でたるんでいた皮膚も、一年ほどの間には次第にたるみがなくなり、自分でいうのもオカシイですが精悍な顔つきとなっています(のではと思う(^^))。MBI(Body Mass Index = 体重÷(身長の2乗))は20弱と、標準とされる22よりは下回っていますが、WHO(世界保健機関)の判定では普通体重の枠内となっています。
肝心の食生活は、厳しい糖質制限からみれば緩んでいますが、アルコールは赤ワインとか焼酎を楽しみ、炭水化物は朝食にイングリッシュマフィンを一枚、夕食にはご飯を軽く一杯程度をいただいています。a1cの数値が6.0前後で保たれているあいだは、この程度の糖質プチ制限の食事法を続けたいと思っている。
また、食事と並んで大事なのは適度な運動で、筆者の場合、スポーツジムへ週に5日は通っており、軽い運動やスクワットをしたり、ストレッチで硬い身体をほぐしたりしています。
もちろんスポーツジムに行かなくても、家の近くを雨の日以外、5千歩とかを散歩すると、我われ高齢者にとっては、それだけで身体にはとても良い効果が期待できますね。
おわりに
昔から一病息災とよく言われるが、まことに的を得た言葉ではないかと思っています。
糖尿病とうまくお付き合いをするため、血糖値を上げないための食生活と軽い運動を続けていたら、うれしいことに結果として体重は十代の若かりし頃まで減少し、自治体の定期健診での、あらゆる数値もほぼ正常範囲に収まっています。
我々シニア世代の糖尿病およびその予備軍の人数は、依然として高い水準を推移しています。人生100年時代と言われるが、大切なのは健康寿命であり、読者の皆さまが一日でも長く健康的な日常生活を送られるため、このエッセイが少しでもその参考となりましたら、この上なくありがたいと思っています。
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